ひどく眠かった。
私は午前十一時過ぎにようやく目覚めた。
支度をして私は美容院を目指した。
新宿に向かう湘南新宿ラインの電車が線路内に人が立ち入ったとか何とかで武蔵小杉を出た後に緊急停車した時は肝を冷やしたが、ライブの時間には間に合った。
美容院には四谷天窓という小さなライブハウスがある。
今日この場所で、大阪を中心に活動するシンガーソングライターのさぁさがライブを行う。
さぁさの唄を聴くのは今年の四月以来だった。
コンビニエンスストアで缶ビールを買って、景気づけの一杯を呑み乾し、四谷天窓のあるビルのエレベーターに乗った。
この日のライブは三組のミュージシャンが出演する構成だった。
私が到着すると、最初のグループが演奏をしていた。何やら奇抜な扮装をした人たちだった。
その人たちのステージが終わると椅子席が空いたので、私はフロアど真ん中の椅子を自分の居場所に定めた。
ドリンクカウンターでギネスをオーダーし、さぁさがセッティングを行うのを見ていた。
ほどなくしてさぁさのステージははじまった。
私はさぁさの飾りけも衒いもないシンプルな唄を楽しんだ。
さぁさは歌うたいにならなかったら、保母になっていただろうと、twitterでつぶやいていた。
さぁさの唄にはそんな彼女の人柄が現われているようだった。
<セットリスト>
01.ハローハローハロー
02.トワイライト
03.magic soup
04.毛布
05.Ding☆Dong
06.ドラマチック
07.パ・パリラ♪
さぁさは、この三連休東京に滞在して、三つのライブに出演する。
どれもクリスマスを意識したライブなので、新しくクリスマスソングを作って来たという。
その曲が五曲目の「Ding☆Dong」という曲で、とても楽しくてさぁさらしい曲だった。
最後の曲は「パ・パリラ♪」。私は大好きなこの曲をさぁさと一緒にハミングした。
本当に、楽しいライブだった。
ステージが終わった後、トイレに行ってフロアに戻ると物販スペースにさぁさが立っていたので、挨拶を交わした。
手作りのプレゼントゲットカードをもらい、明後日のワンマンライブのチケットの整理番号が一桁だったと話すと、さぁさは、「四月の(ワンマンライブの)ときはインターネットでチケットを入手することが出来なくて、直接ストロボカフェ(ライブハウス)に買いに行ったんですよね?」と声をかけてくれた。私は驚いた。八ヶ月前にほんの短い間に交わした言葉をさぁさは覚えていてくれた。そのことが私を少し幸せにしてくれた。
予約していたさぁさのバースデイ限定CDを受け取って帰ろうかと思ったが、次の出演者の準備が整い、ステージがはじまるところだったので、椅子に座って最後まで聴くことにした。
最後の出演者は、はしもとひろしという方。
編成は、ボーカル・ピアノの赤サンタと、アコースティックギターの黄サンタと、エレクトリックギターの青サンタ。
三人のサンタはみんな四十代かと思われる。
黄サンタはたまにバイオリンを取り出して弾いていた。
ボーカルの赤サンタはどことなく錦野旦みたいな声質をしていた。
青サンタは、数々のCMソングを手がけているらしく、メドレーでCMソングを歌っていた。
アルソックも大正漢方胃腸薬も青サンタの手によるものらしい。
青サンタは黙っていたら冴えない中年にしかみえない。
身振り手振りを加えて歌う青サンタの姿を私は尊敬のまなざしで眺めていた。
たぶん、メインボーカルを務めている人がはしもとひろしなのだろう。
はしもとひろしのステージも楽しくて心地よいものだった。
アンコールの演奏を終えて、赤さんたのはしもとひろしはフロアに降りてリスナーひとりひとりにささやかなクリスマスプレゼントを渡していた。でも結局全員分は持ち合わせがなくて最後の方は女性優先に手渡して、後ろの方の人にはごめんなさいと謝っていた。
私はというと端っこに座っていたにもかかわらず、ちゃっかりもらってしまって、かなり恐縮してしまった。私がもらったのはキャラメルティーのティーバッグだった。
ライブ終了後、予約していたさぁさの手作りのCDを受け取り、明日も明後日も楽しみにしていると話した。
さぁさは握った左手の親指を立てて私に示した。私は右手の親指を立ててそれに応えた。
家に帰るとすでに外は暗かった。
関東地方には寒波が襲っているというが、それでも私は週末の日課であるジョギングをしに、再び外に出かけた。
七キロメートルほど走って、家に帰りシャワーを浴びて、酒を呑みチキンを喰った。
夜が更けようとしていた。
四谷天窓で受け取ったジャケットも歌詞カードもレーベル面もハンドメイドの「HAPPY BIRTHDAY」の中にはあたたかな音源が詰まっていた。
そのあたたかさが私の心を和やかにしてくれた。
(おしまい)